夏祭り

僕はふとテレビを見ていた。
その時はニュースが流れていて、万引きが起こったとか、火事が起きたとかそんなニュースばかりで、対して興味もないしぼんやりと眺めていた。
少ししてから、数週間後に有名な夏祭りが行われるらしい、と聞こえた。

それは、カントー地方の○○で行われているお祭りで、毎年たくさんの打ち上げ花火も上がるらしい。その光景がすごく綺麗だって聞いたことがある。
元から僕が気になっていたお祭りだったこともあるが、彼と行きたいと思っていたから、どうせなら今回彼を誘って一緒に行ってみようかな。
……まぁ、もし彼が行けないようであれば、リーフ達でも誘ってみんなで行けばいいか、なんて思った。

とりあえず彼に連絡をしてみようと思ってメッセージを送った。それから数分して返信が来た。どうやらその日と前日は空いているようだ。今日は彼と前に会ったときから二週間も経っていた。
ちょうどいい機会だし、どうせなら祭りの前日から二人でお泊りでもしようか、なんて思った。
それを送ると今度はさっきより早く返信が来た。かなり嬉しそうにしてることが伝わってきて、僕も嬉しく思った。

どうせなら浴衣を新調しようかな、なんて思った。今持ってる浴衣が、成長期があったこともあってずいぶん小さくなってしまったからだ。
それなら、リーフに浴衣選び手伝ってもらおうかな、なんて思って彼女に連絡を一つした。彼女は少し茶化すような返信をして、その後に了解の返事をくれた。

数日後、浴衣選びの日になって、カントー地方某所の浴衣屋さんに着いた。リーフに何種類か選んでもらおうと思った。
……やっぱり、彼の名前の赤色の浴衣にしようかな。でもやっぱり水色か白もかわいいしな、なんて、僕が迷っているうちに、リーフが何枚か持ってきてくれた。

その中に、不思議と目を引かれる白い浴衣に赤の帯の組み合わせの、思わず息を呑むくらいきれいな浴衣があって、僕は一目惚れをした。
これにしよう、と声をかけようとするとリーフが楽しそうに茶化してきた。
「えー!わかっちゃった!この色選ぶの、絶対レッドのこと考えてるでしょ!」
「……やっぱバレてるー!私、バレないかなって思ってたのに」
「ふふ、だって顔に出ちゃってるもん!ルイ、すごく嬉しそうだし!」
リーフの言葉に、僕は頬が熱くなるのを感じた。
「もー、茶化さないでよ!」
「茶化してなんかいないよ!本当に、その白い浴衣はルイにすっごく似合いそうだなって思ったの。大人っぽいけど、ルイらしい可愛らしさもあって、わたしはすっごく素敵だと思うな!」
「……ね!だから、試着してみようよ!早くルイが着てるところ、見てみたいな!」
リーフに押され、僕は一目惚れした白地に赤帯の浴衣を手に取り、試着室へ向かった。
袖を通し、帯を締めて鏡の前に立つ。今まで着ていた幼い頃の浴衣とは違い、すとんとした生地が落ち着いた雰囲気を出している。描かれた梅の花が、派手すぎず、でも華やかに彩っていた。

気づけば、祭りの前々日だった。明日はお泊りをすることを意識してしまえば、ドキドキして、逆に寝られなくなってしまった。……まぁ、明日きちんと寝ればいいんだけど。
こんな様子で明日を迎えてもドキドキしちゃって一睡もできないんじゃないか。……なんて不安がよぎる。……でも、意外と寝れるもの、なんだろうか?

お泊り会を彼や僕の家では、数えきれないほどしている。でも、ホテルや旅館などでは初めてなのもあるのかな、なんて思った。……彼はきちんと寝れてるだろうけど。
一応寝る前に持ち物の確認だけして寝よう。持っていくものは多くないが、――念には念を入れて、とも言うし、――きちんと確認した。
……こうして、そわそわしたまま目を閉じた。

ホテルに着いた翌日。夏祭りが始まるのは昼過ぎからだ。今日を思い切り楽しむために、――彼はいつも通りだが――昨日は二人とも早く寝た。
今日のために浴衣も下駄も新調したんだ。……きっと、彼の喜ぶ姿も見れるだろう。

それはさておき、僕は今日の朝食は何にしようか、なんて考えた。
このホテルは朝食がビュッフェのような形で出されるらしい。
オムレツでもいいし、いろんなパンを食べてもいい。そんなことを考えてるうちに、朝食会場についた。
どうせなら、二人でご飯を取りに行こうか。なんて思っていたら、彼もそうだったらしい。僕を見て、まるで「早く行こう」とでも言うふうに笑顔を見せている。

僕たち二人でご飯を取りに行って、まず最初に来たのはおかずが沢山並んでいるところだ。
僕は並んでいるそれらを見て、卵のいい匂いと、綺麗な色合いのそれを食べたいな、と思った。どうやら彼はウインナーを取ったらしい。それも美味しそうだな、と思った。
僕は次にパンが並んでいるところに来た。――彼はどうやらご飯が食べたいらしく、ここで別れた。
やっぱり、僕は食パンが好きだ。トースターで焼ける匂いと共に、朝の訪れを感じるからだ。
それから色んなものを取って席に戻った。彼はカレーにしたらしい。
朝からカレーってだいぶ重いなぁ、とは思ったけど、彼のことだ、昼時にはまた色々食べ出すだろう。
……なんていうか、彼は欲に素直な方だと僕は思う。特に食欲と睡眠欲には。

それから一時間ほど経った。
思ったよりも早いように感じたが、お昼ごろになった。
僕は朝食を食べ終えてから少しして、浴衣に着替えた。
この間新調した浴衣は、前に着てみた時と同じように、何より綺麗に見えて、彼の名前から選んだ赤色の帯は、特にキラキラして見えた。
髪飾りは赤い梅の簪だ。
これはリーフが選んでくれたのもあるが、どうせなら浴衣に描かれた梅の花と同じにしたかったからだ。
最後の仕上げに、赤い梅の簪を髪に挿した。
鏡の中の僕は、いつもの自分とは違う、少し大人びた雰囲気を纏っている。
僕は鏡に映る自分の姿をもう一度見て、少し整えた。

部屋に戻ると、待っていた彼も、僕の姿を見るなり目を輝かせた。
「……!」
「そう?ありがとね、レッド」
「……?」
「……うん、そうだよ。レッドの赤」
「……」
かわいいと言いながら僕を見ている彼は、僕の浴衣の帯の色が赤色なのを見て、「それって、ぼくの色だから?」なんて言っていて。
それに対して僕は、少し照れくさかったけれど、気づいてくれたことが嬉しくて、クスッと笑いながら、「レッドの赤」なんて言ったら、彼も少し照れくさそうにしていた。
そんな会話をした後、僕も、彼の着ている浴衣を見た。
彼は、濃紺の生地に落ち着いた柄の浴衣姿だ。
いつもの彼より大人びて見えて、不思議とドキドキしてしまった。

それから少しして、時間もちょうどいい時間になったので、お祭りの会場まで歩いていく。道中、いろいろなものを見かけたり、きれいな花が咲いているのを見かけたりした。
お昼ご飯は、たこ焼きやポップコーンなどを食べていた。
……まぁ、お昼ご飯と言えるようなものではないけど、夏祭りとかのイベントの場合は別だろう。
二人で一緒に食べていると、何でもおいしいように感じてくるのは、やはり恋人だからだろうか。
そんな感じに、射的をしたり、ヨーヨーすくいをしたりして、時間を持て余すことなく過ごしていた。

それからしばらくして、夕暮れ時。
少しかかとから痛みを感じた。わざと勘違いかと思って、知らないフリをした。せっかく夏祭りに来ているのに、彼に気を使わせたくはなかった。
わたあめやチョコバナナとか、いろいろなものを買って食べているうちに、そんな痛みは消えていた。
少しして、またお腹がすいてきたから、焼きそばを買ったり、ポテトを買ったりしていた。

――ふと、かかとがジンと痛んだ。
「……っ」
僕は小さく息を漏らした。やっぱり靴擦れだ。
……気づかないふりをしていたのに。慣れない下駄を履いてきたからだろうか?
少しの不安から、彼を見つめた。どうやら彼は僕の様子に気づいていないようで、楽しそうに笑顔を浮かべていた。
その様子を見て、ほっと一息ついた。とりあえず一安心だ。
それなら、バレないように、どうにか乗り切ろう。なんて思った。
……まぁ、感の鋭い彼のことだ。歩き方が普段と違う僕を見て、靴擦れを隠していることがバレる可能性の方が大きいけれど。